2011年05月22日
越木岩神社の甑岩:甲山南麓の磐座
境内に甑岩(こしきいわ)をご神体として擁する越木岩(こしきいわ)神社は、西宮市甑岩町に鎮座しています。
地図に書くと以下の通りの場所になります。
特異な山容で独立している
甲山(かぶとやま)の南南西2kmに位置します。
甑岩はこの神社のご神体であり、高さ10m、周囲40mの巨石です。
(大きさは神社のHPからの引用です。)
私は自分のブログで、いくつもの巨石や磐座(いわくら)を登場させてきました。
たとえば、
和歌山県生石(しょうせき)神社
大阪府磐船神社
三重県花の窟
沖縄県波の上
奈良県與喜天満神社
滋賀県白鬚神社
でも、本格的に正面から巨石や磐座を論じるにはまだ力不足であることを痛感しています。
今回も、この岩の周辺をあれこれ眺めるだけで終わることになります。
ただ私は、上記「花の窟」の記事で書いたように、
「その岩自体がカミなのか、つまり岩そのものに古代人は神性を見たのか、
あるいはカミがその磐座付近に存在している(憑いている)または降りるということなのか、
古代の人びとの最初の信仰のこころがどちらから始まったのか、私はどうしても知りたいのです。」
という問題意識を持っていて、
暫定的結論として、
「カミは(あるいは精霊は)ヒトの姿からは始まらない。」
つまり、上古では、ヒトは磐自体に神性を見いだしたのだ、と考えているのです。
その仮定を前提としてこの越木岩神社の甑岩を眺めるならば、
そして上古からこの甑岩が信仰されていたならば、
この「巨石自体」またはその「場」が、上古人の心をとらえて離さない何かを有していたのだと思います。
その「何か」のヒントになるかもしれない伝承を二つ紹介しておきます。
1)豊臣秀吉による大阪城築城の際、石垣用の石の調達を命じられた大名が、この甑岩に注目した。「白い龍が住み着いているからたたりがある。」という村人たちの制止を振り切って職人たちがノミを入れて割り始めると、岩の裂け目から白い煙が噴き出した。煙はさらに白、黄、赤、青、黒と色を変え猛烈な勢いで音を立てて噴出した。ついにその熱気は職人たちを悶え死にさせたので大名は石割りを断念した。
(以上、神社のHPを要約)
2)約1100年前の延喜年間(平安時代)には、この岩より煙がたちのぼり、大阪湾の舟からも見えた。(以上、境内の説明立札を要約)
これらの伝承が示唆することは、次のいずれかになります。
A)こしきいわは甑(こしき=昔の蒸し器)のような岩。噴気を噴出したことがある。
B)こしきは五色。五色の煙を噴き出したことがある。
もちろん、史実とは限らないわけですが、少なくともそのような共同幻想は持たれていたといえます。
ぶわっと噴気を出した(と思えた)のです。
この史実、または伝承が平安期にあったのなら、さらにさかのぼって上古から存在していたとしても不思議とは思いません。
もちろん、かつてこの岩の形状はいまよりもっと蒸し器の甑に似ていて、
甑のような岩、という呼び名がまずつけられて、
その上に上記1)2)のような幻想が生まれたことも十分にありうることです。
(ここでは弥生以来の土器製甑を想定しています)

上から甑(こしき)、釜(かま)、竃(かまど)境港市観光ガイドより引用

甑:大野城市教育委員会HPより引用
さて、うろうろと書き連ねようとしても、このあたりで行き止まり。
やはりその正体に近づくことはできないままです。
何よりも私にはこの(現状の)甑岩が土器甑にはどうしても見えません。
辛うじて岩の一部が見えない形で撮影した大岩は、
下の写真の通り、甑と言われれば甑に見えます。
下の岩が釜のように甑を支えています。
神社のHPでは、甑との形状の類似より、むしろ(正面の姿から)女性器との相似を強調しておられます。
私の率直な感覚ではむしろこの発想に共感してしまいます。(下の写真)
しかしそれでは甑岩という名称の探究や伝承の検討は、はじめから無駄足だったことになります。
岩から噴気が立ちのぼった、それは大阪湾に浮かぶ舟から見えた、
というイルージョンが現実であった可能性を追求したい気持ちが消えません。
もちろんこの岩付近に火山性の噴気があった気配はありません。
六甲山系にはいまのところ、有史以後に地下のマグマ活動が地表に及んだ形跡はないからですし、
ばかだなあと自分で思いながらも、この大岩をゆっくり一周してみても、
岩肌に目で見える変化はなく、
ただの花崗岩に過ぎません。
ただこの岩付近から、わき水は生まれています。
ご神体の甑岩に龍神が依り憑いているというイメージなら、
これはなかなか絵にはなると思うのですが。
狼煙台であった可能性や
甲山信仰との関連などにも視野を広げながら、
今後も正体を考え続けたくなる巨石でした。
Posted by gadogadojp at 16:30│Comments(0)
│神社/仏閣
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。