2018年05月19日
『タクシー運転手』
韓国映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』のレポートです。

まだ上映中ですから簡単に。
いずれ「映画の水たまり」で論評したいと思います。
でも少しはネタバレが含まれています。
すげえ!映画でした。
おすすめします。
事実に基づいたフィクションです。
ソン・ガンホさんをはじめとする役者たちの演技になんども涙しました。
韓国映画・TVドラマがちょっぴり苦手な方は多いですよね。
実は私もその一人。
登場人物が軍人や王などの一般人でない映画を数本見てしまったせいか、
娯楽性、というか、泣かせる、笑わせるなどの情動に訴える作風が多いせいか、
これまで大好きになった作品は『グエムル』だけでした。
本作と同じくソンガンホさんが主演する『グエムル』は、
韓国映画らしい娯楽性の中に、基調として反米の精神がこっそり貫かれていて、
そのバランスが好もしかったのです。
本作『タクシー運転手』も同じです。
いえ、批判精神は「こっそり」ではありません。
たっぷり美味しい娯楽の皮の中に、めちゃ辛いキムチ入りの真実の餡が詰まった肉まんみたいです。
韓国風に名付ければ、キムチ入りのワンマンドゥ(肉まん)
娯楽性も豊かで、真実あるいは批判的精神の両者の調和がうまくとれていますから、
私のように韓国映画が苦手な方も大丈夫では?

本作は光州事件が題材になっています。
光州事件とは、1980年5月、チョンドファン(全斗煥)が大統領だった時代に起きた、
軍隊が韓国南部のクァンジュ(光州)市で民主化運動に参加した民衆を銃弾で射撃し、
多数が犠牲になった事件です。
政府・軍は光州地区を封鎖し、強力な報道管制を敷いたため、この事件が内外に知れ渡るのは遅れました。
本作では、事件を世界に報じたドイツ人記者が、タクシー運転手と共にもう一人の主人公になっていますが、
実は日本でも朝日新聞の特派員が事件に遭遇し、紙面でスクープ記事を掲載しています。
彼がのちに行った講演の記録から、現場の状況が垣間見えます。
http://hikaku-kyoto.la.coocan.jp/080715saitou_kousyuujiken.pdf
このように国内の新聞にも掲載されたのですが、当時は多くの日本人にとっては韓国のニュースはよそ事でした。
日本政府もアメリカ政府も韓国の軍事独裁政権と親しかったため、事件に対するアクションもほとんどありませんでした。
無関心であったのは外国人だけではありません。
この大事件に対して、北部の大都会ソウルの人々さえ関心を持たなかったことは、この映画を観てつくづくと思い知らされました。
沖縄の抱える苦難を無視する内地マスコミ、無関心な私たち内地の日本人を思い起こさせるとは妻の感想でした。
報道管制の問題も人ごとではありません。
ドイツ人ジャーナリストを光州まで乗せて、さらにソウルまで帰った実際のタクシー運転手キム・サボクさんは、
本作とは違って意識あるインテリゲンチャだったようですが、
(映画を観られた方は、運転手さんの息子さんを扱った記事をぜひお読みください。
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html)
ソンガンホさんが演じるキム・マンソプ運転手は本当に市井の平凡な父親に設定されています。
つまりは学生デモや民主化運動などは北朝鮮に扇動されたアカのやる愚行だと信じて疑わない人物だったのですが、
お金欲しさに光州に行き、そこで起こった惨劇を目撃することで、
人間としての怒りに目覚めるという筋書きです。
製作者、監督の意図がよくわかります。
なお、本作の撮影は、2016年。
朴槿恵大統領のスキャンダルが明るみに出る直前です。
朴槿恵大統領は、光州事件の徹底調査には消極的だったと聞いています。
また、2018年になって、
光州のあるビルの10階建部分に残っていた170発を超える銃弾あとが、
軍部のこれまでの<否定>にもかかわらず、
韓国軍のヘリコプターによって撃ち込まれたということが判明したそうです。
民衆は空からも無差別銃撃されたのです。
あらゆる国家の軍隊の銃口は、
外敵にだけ向けられるわけではないということを
改めて教えてくれる映画でもあります。
まして軍や政府は平気で国民に嘘をつくことを、
ここ数年で日本人も十分に学びました。
他人事ではない映画です。
光州民主化運動において、国家権力による虐殺の犠牲になった韓国民衆の皆さんに、
心から哀悼の意を表明します。
そしてその事件の1〜2年後に5度目の韓国旅行をしながら、
十分にこの事件について学びもせず、
光州にも足を運ばなかった当時の私をいま叱ります。

パンフレットより
Posted by gadogadojp at 00:59│Comments(0)
│映画
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