2007年08月12日
「夕凪の街 桜の国」
「夕凪の街 桜の国」 こうの史代 双葉社
あなたがなんらかの差別を受けている集団の一員だとして、
あなたの息子が、同じ集団の女性と結婚したいと打ち明けたとき、
あなたはどういう態度をとりますか。
家族や友人や近隣の人たちの多くが、ある災厄で死亡したとして、
あなたもその災厄のせいで「死に至る病」に罹患しているとして、
災厄を逃れた人が訪ねてきたら、どういう心境になりますか。
同様に家族や友人や近隣の人たちの多くが、ある災厄で死亡したとして、
でもあなたはどうやらその災厄から逃れたのだとして、
自分だけが幸せになっていくことに罪悪感が湧きますか。
このような状況や心理は、
うんと薄まった形で私たちはいつも経験しています。
「差別とまではいかないけれど」
「死に至る災厄ではないけれど」
ならば、ね。
あえて例をあげれば
学歴問題一つ言えば
台風被害一つ言えば
済むはずです。
でもたいていの場合は、
あまりに危険性が薄まっているから、
それを、<被爆>に結びつけたり、
人としての生き方として考えたり、
などはせずに、
やり過ごして生きていくのです。
それでよいのか
いけないのか。
ていねいにていねいに
淡々とユーモアも交えての日常風景を、
残酷な描写などほとんど描かずに
声高な主張など一切せずに
この作品は創られていますが、
読後の読者には、
このような重いテーマをつきつけてくるのです。
広島と長崎の被爆者のみなさんが、
結婚し、子どもを産む年齢を過ぎてしまった現在、
日本人全体は余裕を持ったシンプルでピュアな心のかたちで、
被爆者への支援に共感しておられるのでしょうが、
二三十年前までは、そんな単純な心情で、
反核を訴えるわけにはいかなかったことを
思い出してみるのも無駄ではないでしょう。
数十万人の被爆者のみなさんへ
(その中には植民地朝鮮や台湾出身の皆さんも含まれていますが)
心からの哀悼やお見舞いの意を。
そして現に(劣化ウラン弾によって)緩慢な被爆を受け続けているイラクのみなさんや
ネバダやビキニ、チェルノブイリや美浜…など、核実験や原発事故によって被爆された方々に、
(もちろんタカ派ジョン・ウェイン氏にも)
また
サボテンやサソリやクラゲや魚たちにも、
心からの哀悼やお見舞いの意を。
Posted by gadogadojp at 13:01│Comments(0)
│マンガ