紀伊半島フィールドワーク 国道311号:中辺路コース2

gadogadojp

2020年12月05日 20:00

「紀伊半島フィールドワーク」

国道311号線:中辺路コース2
:白浜から近野(近露・野中)まで

の内今回は滝尻王子から近野まで

・紀伊半島を横断する国道311号に沿って進むライトなフィールドワークです。

・決まり事と目次は最初のページをご覧ください。

大字(おおあざ)(あざ)は進行の目安になり、また地域の重要な歴史が潜んでいることもあるので赤字にしました。(すべての字を掲載しているわけではありません)

・お好きな地図(国土地理院地形図、googlemapなど)を伴侶にお読みください。




滝尻王子のすぐ裏手から中辺路の急坂が始まる。


◉滝尻王子+『熊野古道館』〜栗栖川
滝尻王子は富田川と石船(いしぶり)川が合流する地点にある。五体王子の一つで社格が高い。水垢離を行い、いよいよ本格的に熊野の神域に入る心構えを固める王子だったように思う。重要文化財の黒漆小太刀を所蔵する。

・王子はここも跡であって、現在の神社の正式名称は滝尻王子宮十郷(とごう)神社という。明治時代末期の悪名高い神社合祀政策の性格があからさまに表れた名称だ。西園寺公望内閣の内務大臣原敬が明治天皇に勅令を出させ、その後の桂太郎内閣が全国的に反対の声が高まったにもかかわらず強引に押し進めた。この神社でも”十郷”それぞれに、住民と村の守神との悲しい別れがあったに違いない。つまるところ国家神道の体面を保ちつつ国家や自治体の経費を節減する方策である。国家は宗教に手を染めてはいけないのだ。(大日本帝国は神道を宗教だと認めなかったが)

・前回にも書いたが、『熊野古道館』には立ち寄ってみよう。また、『滝尻茶屋』という茶店があり、良心的な軽食もある。火水休。FBで営業確認を。隣の『民宿古道の杜あんちゃん』の売店では季節によって天然アユやアマゴ(冷凍・生)、天然ウナギ、モクズガニ、テナガエビ、梅干しなどを販売している。巡礼のために荷物を宿まで運ぶサービスもある(有料)。

・プチ古道:有名な胎内くぐりや乳岩まで神社の裏手から500m進む急坂。良い雰囲気の道で、”蟻の熊野詣”がリアルにわかるすり減った岩が随所にある。乳岩の伝説はここでは省く。これ以降高原(たかはら)までずっと登りなので、プチ巡礼さんはここから引き返そう。

・なお、平安時代はここ滝尻までの区間も難所で、渡河が多かった。藤原定家も服まで水に浸かったという。そのため少し北の山地をいく潮見峠越えから高原に至るルートが次第に主流となり、滝尻王子は衰えていった。

。滝尻から車で5,6分登ると”天空の里 峰”のてっぺん。
高い場所まで集落が点在する。特別な見所はないが、途中のフクロウの焼き物がかわいい目印になっている。峰は南から東の山の眺望が佳い。集落の先に素朴な展望台Pがあるが目の前には畑。少し先まで歩くと眼下の富田川がみめよく見える。大パノラマなのだが、紀伊半島を探索していると少々では驚かなくなっている。ここは熊野古道(早駆け道)沿いではないが、潮見峠越えのルート(滝尻迂回)途中から滝尻王子に下る場合の抜け道としてとして古くから知られていたようだ。

・峰集落のてっぺんに小さな厳島神社があるが、隣接するように『熊野中辺路 峰の宿』という一棟貸の宿がある。バルコニーが広く、昼間の絶景も夜の満点の星も一人占めできるような立地。食事はなく、キッチンで自炊。平日二人で計2万円弱の料金。


                                   峰のフクロウ:宿の入り口で




・滝尻から国道371号を石船川沿いに通るとやがて日置川流域に至る。狭小な道が多く敢えて勧めないが、風情のあるポイントが多い。別項で。

・栗栖川集落に入る直前の鍛冶屋川口交差点で左に取ると龍神村に向かう県道198号線。カーブは多いがよく整備された快走路なので龍神にはこの道がベスト。途中に一ヶ所公衆WCのある公園がある。龍神村については別項で。


・なお、鍛冶屋という字は鍛冶屋川上流のさらに支流、大字熊野川の谷間にあってかなり距離がある。未踏。ここから栗栖川に”出稼ぎ”に来ていたのだろうか。



峰集落のてっぺんから富田川を臨む:遠くの山は麦粉森山や日置川上流の山並み?



◉栗栖川(くりすがわ)と川合

栗栖川(大字)は広い。滝尻も栗栖川の一部で縄文土器の破片が見つかっている。富田川もここでは栗栖川と呼ばれていた。旧中辺路町の中心地。

・”栖”は棲む、棲息するの意味。栗林が多かったのか。栗林に住むとの由来か。栗の字を使った地名は日本中に多い。椎の実や胡桃と並んでアク抜きをしなくても食べられるクリは縄文時代から愛された木の実。縄文集落の周囲に栗の木が生えている例がよく見つかる。栗の木は日向を好む。森を切り開いて集落を成すことで生育しやすくなったか、あるいは栽培か、両方の説がある。もちろん、クリとは関わりない表音なのかもしれない。でもそれならばクリスとは?マレー文化では聖なる短剣のことだ。

・このあたりには一休みや寄り道に適した店が多いので列挙する。

 ・栗栖川の『一菓』〜小さなケーキ店。シンプルな外見の洋菓子だが大阪で修行した店主による綺麗な味。二卓ほど席がある。旧道沿い。悪いが農協前に停車させてもらってる。
 ・栗栖川の『カフェ・ド・リッカ』〜高級感あるイタリアン創作料理。陶芸家である旦那さんの作品がいっぱいの趣味的な店。国道から北に入る。未食。
 ・川合の『菜菜』〜国道沿いの中華屋。美味しくてボリュームたっぷりの人気店。近辺では貴重な夕食が食べられる店。時々臨時休業があるので、予約が無難。FB参照。
 
 ・川合の『ふたかわ超学校』〜廃校(二川小中学校)を使って地域起こし。月に1回はミニマーケットと映画上映が。他にもイベントあり。

 ・川合の『ブルーベリーと山の幸 松平農園』〜夏季にはブルーベリー摘みができる。予約制で千円。時間無制限。FB参照。

 ・温川(ぬるみかわ)の『パラダイス・カフェ』〜地域振興を兼ねたとてもゆったりしたスペースにパスタ中心の良心的なランチ。地元産品を使ったスイーツ。国道から少し山奥(5分)に入るが道は良い。

川合。上記にも出てくる大字。言葉通り中川と富田川とが出会う。ここから北に向かう道はあの酷道371号線だが、温川までは快走できる。狭くなった道をさらに進めば、龍神村の殿原に行き着く。未踏破。

朝来平(あそだいら)。大字川合の一部。合流地点そばの段丘状の平地が住宅地になっている。穏やかな空気感を感じる。湿地でもないし狭い谷でもない朝来の由来はなんだろう。後で再登場する。



栗栖川の桜


とある標識と熊野古道


◉高原(たかはら)
高原は熊野古道沿い、栗栖川や川合の東方の高台の集落。王子は設定されていないため古道(王子)が成立した平安期には集落はなく、古道だけが通じていたと考えられる。
タカハラという呼称自体が住民目線ではなく栗栖川あたりから眺めて呼んだのだろう。

・高原に向かうには国道311号線原之瀬橋交差点を右折し渡って上る。橋には「熊野古道→」「古道ヶ丘→」「中辺路陶芸館→」などの文字がおどっているのでわかりやすい。道は1.5車線程度と狭いが他の道はもっと狭いのでこのルートがベスト。ルートは曲がりながらもほぼ道なり。一ヶ所、直進すると細い道になる場所で右に曲がるところだけに注意。

・展望スペースがあり果無(はてなし)山脈の眺めが素晴らしい。駐車場・WCあり。前の道が即熊野古道。
平安の昔、滝尻王子から登ってきた巡礼たちが見た風景を私も見ているはずだ。また棚田も良い。かなり田の枚数があるのだが、すべては見えないようだ。

・ホテル『霧の郷たかはら』ではランチもある。地元の野菜などを使った郷土料理がいい。ここからの眺めも良い。霧がかかれば幸運。目の前に古道。他にもおむすびや米パンの『じぞうど』など魅力ある小さな店が点在する。しかし現時点では店頭販売していない場合も多い。なお、『虹の花食堂』は残念ながら閉店。この店に行きたくて高原という地に注目したのだが未訪問。残念。上記のリンクには高原についてもう少し詳しく書いているし写真もある。


・『高原熊野神社』の小さな社殿がいい。近辺ではもっとも古く室町時代の建立という。

・プチ古道:王子社はないが、古道をぶらぶら歩くことができる。滝尻王子から徒歩で来る人も多い人気コース。古道はまだ先に進むが、プチ古道歩きだとバス停のある栗栖川に降りるのが一般的。



高原からの展望



福定宝泉寺の大銀杏


◉栗栖川〜近露
皆ノ川(かいのがわ、かいのかわ)。川合の少し先の大川(大字)に皆ノ川という小河川が流れている。そこから川沿いに北に遡ると皆ノ川という集落が。中上健次さんが訪れた印象的なルポがあったのだが、今は村を挙げて離村してしまった。廃屋が並んでいるが、一部は今も旧村民が農作業に戻ってきているようで、梅の木などが手入れされている。平地がなく日照がわずかしかないこういう谷になぜ人は住んだのか、黙考してしまう山村だ。



                    皆ノ川集落の簡易水道タンクか


福定の大銀杏は国道からも遠望できる。幹の周囲5.3メートル、高さは22メートルの大銀杏のある宝泉寺へは国道から750m入る。ふだんの緑葉も美しいが11月中旬〜の黄葉期は圧巻。休日には付近の狭い道が車であふれる。駐車場はあるけれど狭い。

・福定は富田川沿いの斜面の集落。この辺りから川は北流し、果無山脈安堵山に至る。その途中、かつて兵生(ひょうぜ、ひょうぜい)という人口200人強(明治)の村落があったが、S49年頃全員が離村・移住した。いまもまだ廃屋が残っているという。未踏。移住先は先述川合の朝来平。ヒョウゼイとはなんだろう。安堵山は大塔宮護良親王にまつわる伝承の残る地。なお、兵生には「兵生の松若」という若者の少々切ない伝説が残っている。詳しくは
「みちとおと」ブログのページで。

・『道の駅熊野古道中辺路』は小さな小さな道の駅だが手作り感溢れる佳店。ソフトクリーム、よもぎ餅各種美味。自然薯や椎茸など地物野菜に値打ちがある。軽食・喫茶コーナーは小上がり座敷のみ。店前に複製の大きな牛馬童子像が建つ。
バス停あり。

・プチ古道:熊野古道のアイドル牛馬童子像まで道の駅から登り坂で20分。キツくはない。そのまま箸折峠を超えて近露王子まで歩く人も多い。近露にもバス停がある。

近露。長い逢坂山トンネルと別の短いトンネルを抜けると日置川流域に入りすぐに近露盆地が広がる。トンネルが通じる前と後とでは訪れる利便がまったく異なったはず。近露は富田川が作り出した沖積平野と河岸段丘で、中辺路ではもっとも広々した平地。信憑性の低い伝承(血か露か)もあるが、近露とは近つ熊野(ゆや)だと私は見ている。中辺路の中間点に当たる。

・左手に見える『古道歩きの里ちかつゆ』は道の駅ではなく、熊野観光開発が営む大規模なドライブイン。311沿い。※古道歩きの里などいくつかの施設は閉鎖中
。食堂『ちかつゆ亭』がリーズナブルで水準越え。売店も広い。
同じ敷地にAコープがあり、地場の野菜や『朴』のパンや『じぞうど』のジャムが並ぶことも。すぐ隣に『かっぱ餅』の店舗。主人によれば今は近隣で杵つきで餅屋をしているのはここだけとか。だから正月前は忙しいと。配達等で閉まっている時間が長いが開店していれば近隣のスーパーで売られているより安く買える。



なかへち美術館


 
◉近露王子+近露の街並み
・近露王子については、藤原定家など多くの巡礼が書き残した記録がある。日置川の水の浄化信仰もあって九十九王子の中でも特に栄えた。神域の森の伐採に怒る南方熊楠の書簡や出口王仁三郎の直筆などエピソードも多い。出口王仁三郎は日本国政府から大弾圧を受けた宗教団体の教祖。だから直筆の石碑文などは徹底して破却されたのでとても希少だ。

・王子から東に200mほど続く”道中”は宿が多数並んでいた。いま宿は一軒だけだが、昭和の香りがする看板がそのまま残されていて楽しい。『箸折茶屋』は地元野菜など使った定食やモーニングが人気。足湯あり。予約すれば釜飯が食べられる。※コロナで県外客はお断り。
『CABELO』では美味しいオーガニック珈琲が飲める。安心な食材も販売。『熊野野菜カフェ』は7:00からモーニングあり。金・日はベーグルあり。

・王子の南に『なかへち美術館』がモダンな姿でたたずんでいる。


・東へしばらく行くと大塔宮を助けたエピソードが「太平記」に記されている野長瀬一族の広い墓所がある。
良い風情だ。

・野長瀬一族の墓をもう少し進んだところに『田舎ごはんとカフェ 朴』。Uターンの店主が地元で古民家を改装した落ち着く店。日月火定休。ベジタリアンにも対応できる野菜中心の美味しい食事、デザート、珈琲他。天然酵母のパン販売。





野中の清水:もちろん飲める


旧『とがの木茶屋』:なつかしい方が多いのでは


◉継桜王子付近
・国道311号沿いに進むと、『桶濱』、『すぎのき工房なかがき』の二つの木工店があり、それぞれ特徴がある。実用的で巧みな桶や木製品が好きならぜひ立ち寄りを。

野中に着く。近露と合わせて近野とも呼ぶ。
バス停から見上げられる高台には野中清水や継桜王子、秀衡桜、一方杉、とがのき茶屋などがあって中辺路のハイライトの一つ。近露王子から歩く人が多いが、バス停付近に駐車場がないので、車でくれば仕方なく車で上ることになる。

・野中の清水はマイルド。名水ファンは水筒など必携。数台分駐車できる。継桜王子と一方杉は健在で風情あり。新秀衡桜が育っている。
著名だった『とがの木茶屋』は惜しくも閉店。すぐ近くで今はボランティアが運営する建物があり、頭が下がる。名前が残る。
近くの古道ぞいに少しだけ駐車スペースあり。古道歩きの方の迷惑にならないようできれば軽で。バスで降りて歩いて登るのがベストだが。WCあり。一帯が熊野古道なのでプチ古道歩きには最適。雰囲気のある良いところなのでぶらぶらと。




継桜王子の文字が彫られた石


◉三体月の石碑
・近露と野中の記述で終了するはずだったところ、もう少し先の国道311号沿い、中辺路町湯川と本宮町大瀬の境目付近の道路南側に建つ石碑を紹介する。その昔三体月を目撃した行者や住民を記念して建てたのだろう。

・石碑自体は新しいが、この地は北側の笠塔(かさんどう)峰を経て、行者が最初に三体月を目撃した高尾山の麓に当たる。なお、行者は野中・近露の住民にこの奇跡を伝えたので、近露西側の逢坂トンネル上の古道にも案内板があるそうだ。(未見)





三体月の石碑

※この先の行程は別項に書きます。発表日は未定です。おそらく本宮町限定かまたは熊野三山というくくりで書くことになるかどちらかだと思います。その前に大島や潮岬、白浜の町内フィールドワークなどをアップできれば良いなと思っています。いずれにせよ少しの間インターバルをいただきます。


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